それにしても、キドッチの正体がどうしても判明しない。
「お巡りさんはああ言ってたけどなぁ。さしあたって、いま捜索願の出ている人物から当たってみるか・・・・・・」
いきなりハッキングで調べようとしてしまうあたり、悲しいハッカーの性といえようか。(ただの『非常識』ともいうが)
あまり知られてはいないが、警察の使用するコンピューターには二系統があり、犯罪に関する情報やデータは物理的に切り離されたクローズドのシステムで管理されている。
当然のこと、クローズドのシステムに対してハッキングは不可能である。それは腕の善し悪しの問題ではない。
幸い捜索願のデータは侵入不可能の方ではないほうにも置かれていたが、いやしくも警察のシステムである。
さすがにその手の情報は、そこら辺のシステムよりはプロテクトがきつい。
いつになく桜井が手こずっていると、いつものように脇から覗き込んでいたキドッチが手を伸ばした。
細い指が軽やかにキーボードの上を踊る。何をしたかに気づいて、桜井は目を見張った。
「この厳重なプロテクトを・・・・・・?」
しかしせっかくたどり着いた先の情報にも、なんの収穫もなかった。
それにしても、キドッチのハッキングの腕前は尋常ではない。
あまりにもさり気なく行われすぎて、素人だったら驚かなかったかもしれない。だが、自らも名うてのハッカーである桜井は、キドッチの腕前に舌を巻いた。
この男は今現在、何かの原因でパー同様になっているのだ。
もし正気だったら・・・・・・想像するだけでも寒気がしてくるほどの腕前のはずだ。
たしかにコンベンションの時も、発電所へのハッキングに難なく成功していた。だがあれは、単なる偶然か、たまたまの幸運が重なったせいか何かだと思っていた。
―― いや、そう思いこもうとしていたということを、桜井は今更になって自覚した。
やはりこいつは、本当に『駭客神』なのかもしれない・・・・。
無邪気に笑いながら見返してくるキドッチの色が違う両目を、桜井は複雑な思いで見つめる。
だが桜井雅宏は、現実的な男でもあった。
キドッチの才能を利用して、プログラミングの仕事を引き受けまくって速攻で仕上げて納めて稼ぐ。・・・・というのは表向き。
いざとなれば、ハッキングで得た情報を売っぱらって稼ぐという手も使いたいほうだいだろうしな。
これで生活はなんとかなりそうだし、それでいいじゃないか。きれい事を言ったって、所詮ハッキングはハッキングなのだ。
◇ ◇ ◇ ◇
・・続く



