例のパブに、桜井はまた顔を見せていた。
長身の双子が、彼を迎える。
席に着くと、アインが急に真顔になって訊いた。
「リーイン。あんた、いま『駭客神』を追っかけてるんだって?
どうしたのさ。他人には興味がなかったんじゃないのかい」
桜井は口ごもった。
「いや・・・・」
「なによ、アンタ。『駭客神』に惚れちゃったのぉ?
妬けちゃうわねえ」
ツヴァイが、揶揄するように脇から口を挟んだ。
「そういう言い方は、やめてくれないかな。
ちょっとしたしがらみで、もう一度本人に会いたいだけなんだ」
生真面目に言い返した桜井の言葉に、ツヴァイは顔をしかめてみせた。
「まったく、アンタってば本当にやんなっちゃう。
いくっらハンドル・ネームが『リーイン』だからってさ、なにも性格まで似てくることはないでしょぉ」
「そんなこと言われたって、わからないよ。その映画は見てないんだ」
「そうよね〜。アンタ、映画キライだもんねえ。
見たことある映画なんてあるわけないわよね」
そう言って、くすくすと笑った。
「嫌いってわけじゃなくて・・・・・・暗いと眠くなっちゃうだけだってば」
「ま、同じようなもんよね〜。
いいわ、内容を教えたげる。ようするに、ヘビースモーカーの暴走刑事が追っかけている殺し屋に一目惚れして、相思相愛になったあげく破滅する話よ」
予想外の内容を聞いた桜井は、目をぱちくりとした。
「前に聞いた時は、ハードボイルド・アクションだとかって言ってなかったっけか?
ホントは、そういう話なのかい?」
長い指で額を押さえたアインが、うんざりしたように言う。
「相当違うわね。
・・・・・・まったく。このバカ、どういう見方したんだか」
ツヴァイが片手をピラピラと振った。
「そんなことは、どうでもいいの。
あたし達、あんたのこと本気で心配してるのよ。
見かけより無茶なのは、よーく知ってるからね」
「心配してくれて、ありがとう」
そう言いながら桜井の見せた何処かふてぶてしい頬笑みに、アインがため息を付く。
「今回の事で、周りがけっこうヤバクなってきてるみたいだからね。
アタシ達も、そろそろ地下に潜ることにしたんだ」
ツヴァイが合いの手を入れる。
「新しい名前と、新しい生活。なんだかワクワクしちゃうわねえ〜」
「そのうちこっちから連絡するよ、リーイン」
「いつもみたいに "Don't call us!! We call you!" かい?」
「そういうこと」
「良ぉくわかってるじゃない」
◇ ◇ ◇ ◇
・・続く




