門倉はこの上なく不機嫌だった。
もともと人前に出るのは、あまり好きなほうではない。
それなのに講演までしなければならないと言うのだから、最悪な気分だった。
専門家や部下相手に自分の理論をとうとうと述べたてることなどは、けっこう大好きだったりする。
だが、ろくにわけも分からない聴衆を相手に、見せ物になって喋るのが嫌だったのだ。
ましてや質問なんぞされたひには、最低最悪の百乗だ。
今回のデータショーには『SIVA』が出典参加していることも、彼の神経を逆撫でしていた。なぜだか分からないが、『SIVA』と聞いただけで門倉は腹が立ってくるのだ。
フィネガンの話では、総帥であるフェイとの間に何かトラブルがあったらしいのだが、はっきりと思い出せたわけではなかった。
本当は講演会場の控え室にいればよいのだが、イライラしつつも門倉はアルゴンソフトのブースに居座っていた。担当の社員らにとってはいい迷惑だったが、会場の雰囲気の方が彼は好きだったのだ。
門倉の方が、先に桜井に気付いた。
桜井は、通路にあふれる他の人々と同じようにパンフやROMディスクを入れた大きな紙袋を下げ、ゆっくりと会場内を歩いていた。
―― ああ、リーインがいる。
だが、なぜ自分はリーインの容姿を知っているのだろう? ネット上でしか会ったことはないはずなのに。
多少の疑問は感じつつも、引き寄せられるように門倉はパネルの間をすり抜け、足早に通路の方へと向かおうとした。
それに気付いた社員の一人が声をかける。
「社長、どちらへいかれるのですか?
講演の時間まで、もうあまり有りませんよ」
「すぐに戻ってくる」
リーインの姿を見失うまいと振り返りもせず、片手を振って門倉は応えた。
人波でごった返す通路では、思ったように前へ進めない。それでも門倉は、足早にリーインの後を追った。
リーインは『SIVA』ブースの前あたりに、立ち止まっている。
思わず駆け寄ろうとした門倉だが、ふと躊躇する。
なんと声をかければいいのだ?
知り合い、ではないのだ。おそらく。
とにかく声をかければ何とかなるだろうと決心して、再び桜井に向かって歩み出した門倉の足が早まる。
―― 妙だ。
チリチリと、何かが門倉の警戒心を刺激しはじめる。濃いサングラスの奥で、彼は窺うように目を眇める。
自分以外にも、桜井に向かって歩く男が見えた。その動きが不自然なので、門倉は急いだ。
・・続く
2007年07月28日
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