2007年08月05日
駭客神〜The God of Hacker〜35
桜井と門倉は急場しのぎの救護所からも事件現場の喧噪からも、やや離れたところにいた。
立ち去ることはまだ許されていなかったので、足止めをくっていたのだ。
爆破現場の近くにいた割には、桜井は大した怪我をしていなかった。霞んでいた目も、ボロボロと涙が出たら普通に見えるようになっていた。
くわえた煙草をくゆらせながら、桜井は傍らの男を盗み見る。
目の前にいる男が自分が知っていた男とはまるで別人であることは、すでに痛いほど思い知らされていた。
不自然に半分だけ脱色されたかのような、髪の色。
ほとんど感情の現れぬ、酷薄そうな表情。
己が他者を見下していることすら気づかぬほどに高慢な、凍て付いた色違いの双眸。
これこそが『駭客神』の、真の姿 ――
何気ない仕草で『駭客神』が、サングラスをかけ直す。
そのせいで、桜井にとってはより一層『見知らぬ者』という印象が強くなった。
だがそんな気持ちに、門倉は露ほども気付かなかった。
薄い唇が開き、やや早口な、しかし込められた思いをはうかがい知ることのできない口調で、言葉が発せられる。
「いろいろと申し訳ないことをしてしまった。君には、ずいぶんと迷惑をかけてしまったようだな」
そうして桜井に近づくと、その顔を覗き込んだ。
サングラスのせいで、表情が読めなかった。
「会いたかったんだ、桜井。やっと少し思い出してきたんだよ」
桜井は目を逸らして、呟くような小さな声で言う。
「・・・・きみは・・・・・・アルゴンソフトの門倉社長だったんだな・・・・」
駆け寄ってきた部下らしき男を、門倉は片手の一振りで追い払った。
それはあまりに尊大で、尚かつそうすることになんの疑問も持っていないような仕草だった。
何から何までもの、あまりの変貌ぶりに桜井は言葉を失う。
自分がキドッチと呼んでいた男に、いったい何を期待していたのかはわからなかった。
―― しかし、これは違う。
桜井は何かを思いきるように、首を振った。
・・続く
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