「なるほど。カドクラで『KADI(カディ)』だったのか。案外、安直なんだな」
「ふふふ、わかりやすくて良いだろう?」
「アルゴンの社長みずからが、あちこちでクラッキングなんぞをやらかしてたのか?」
桜井の言葉に、門倉は小さく肩をすくめた。
「せめて『ハッキング』と言ってくれないか。
―― 最初は、ただの趣味だったんだがね。
たしかに、実利的な面もあることはあったな」
うっとりとしたように、濃いレンズの陰で眼を細めながら門倉は言葉を続けた。
「今まで出会った中で、君の腕前が一番素晴らしかったんだよ」
「お褒めいただいて大変光栄です、社長。とでも僕に言えと?」
つい、皮肉るような口調になる。
なぜか桜井は、無性に苛立っていた。
門倉はそんな彼の苛立ちに、やっと気づいたようだった。
微かに困ったような顔をして、桜井の両肩に手を置いた。
桜井の身体が強ばる。
「いま我が社では、新しいプロジェクトが動いてるんだ」
そう言うと、伺うように桜井の眼を覗き込む。
「僕と一緒に天海市へ行こう、桜井。
あそこはやがて、新理論によるネットワークに覆われた、電脳都市になる。
君にとっては、絶好の遊び場になるはずだ」
甘く囁かれた内容は、この上ない誘惑だった。
見慣れぬ笑いを浮かべる、見慣れていたはずの顔を、真正面から見返す。
「条件は?」
桜井の問いに門倉は、ゆっくりと両腕を翼のように広げた。
「君が望むままに」
しばらく門倉の顔を見つめていたが、やがて桜井は頷いた。
ふと、アインとツヴァイのことを思い出した。
同じく天才と呼ばれる身でありながら、門倉とは全く相容れないであろうあの二人。
どうして彼らが頻繁にハンドルネームを変えるのか、やっとわかったような気がした。
「・・・・・・『リーイン』というハンドル・ネームも、手垢が付いてきたよな」
ぽつんと独り言のように言った桜井に、門倉が首を傾げて振り返った。
「確かに知れわたり過ぎた。このまま名乗り続けるのは危険だ、といえるだろうな。
―― ところで『リーイン』というのは、なんでつけたんだい?」
その問いに答えようかどうしようか、桜井は躊躇う。
やがて、少しばかり困惑したような表情のまま応えた。
「ああ、昔の映画に出てきた刑事の名前だとか。演じた俳優に僕が似てるんだそうで」
「ふーん、刑事の名前ねえ・・・・」
嬉しそうに門倉がフフフと笑う。たいそう機嫌が良かった。
「これを機に、全くの別人になるというのも面白いのではないか?」
応える代わりに、桜井は無言で肩を竦めた。
―― こうなれば、そうするしかあるまい
それが破滅へ続く道であろうなどとは、その時は思いも寄らなかった。
to be continued on the game "SOUL HACKERS"
(終)




