2007年08月09日

駭客神〜The God of Hacker〜36(最終回)


「なるほど。カドクラで『KADI(カディ)』だったのか。案外、安直なんだな」
「ふふふ、わかりやすくて良いだろう?」
「アルゴンの社長みずからが、あちこちでクラッキングなんぞをやらかしてたのか?」
 桜井の言葉に、門倉は小さく肩をすくめた。
「せめて『ハッキング』と言ってくれないか。
  ―― 最初は、ただの趣味だったんだがね。
 たしかに、実利的な面もあることはあったな」
 うっとりとしたように、濃いレンズの陰で眼を細めながら門倉は言葉を続けた。
「今まで出会った中で、君の腕前が一番素晴らしかったんだよ」
「お褒めいただいて大変光栄です、社長。とでも僕に言えと?」
 つい、皮肉るような口調になる。
 なぜか桜井は、無性に苛立っていた。
 門倉はそんな彼の苛立ちに、やっと気づいたようだった。
 微かに困ったような顔をして、桜井の両肩に手を置いた。
 桜井の身体が強ばる。
「いま我が社では、新しいプロジェクトが動いてるんだ」
 そう言うと、伺うように桜井の眼を覗き込む。
「僕と一緒に天海市へ行こう、桜井。
 あそこはやがて、新理論によるネットワークに覆われた、電脳都市になる。
 君にとっては、絶好の遊び場になるはずだ」

 甘く囁かれた内容は、この上ない誘惑だった。

 見慣れぬ笑いを浮かべる、見慣れていたはずの顔を、真正面から見返す。
「条件は?」
 桜井の問いに門倉は、ゆっくりと両腕を翼のように広げた。
「君が望むままに」

 しばらく門倉の顔を見つめていたが、やがて桜井は頷いた。

 ふと、アインとツヴァイのことを思い出した。
 同じく天才と呼ばれる身でありながら、門倉とは全く相容れないであろうあの二人。
 どうして彼らが頻繁にハンドルネームを変えるのか、やっとわかったような気がした。

「・・・・・・『リーイン』というハンドル・ネームも、手垢が付いてきたよな」
 ぽつんと独り言のように言った桜井に、門倉が首を傾げて振り返った。
「確かに知れわたり過ぎた。このまま名乗り続けるのは危険だ、といえるだろうな。
  ―― ところで『リーイン』というのは、なんでつけたんだい?」
 その問いに答えようかどうしようか、桜井は躊躇う。
 やがて、少しばかり困惑したような表情のまま応えた。
「ああ、昔の映画に出てきた刑事の名前だとか。演じた俳優に僕が似てるんだそうで」
「ふーん、刑事の名前ねえ・・・・」
 嬉しそうに門倉がフフフと笑う。たいそう機嫌が良かった。
「これを機に、全くの別人になるというのも面白いのではないか?」
 応える代わりに、桜井は無言で肩を竦めた。

  ―― こうなれば、そうするしかあるまい


 それが破滅へ続く道であろうなどとは、その時は思いも寄らなかった。
  




to be continued on the game "SOUL HACKERS"






(終)

posted by 滝村磨允 at 23:33| Comment(0) | 駭客神 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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